や行薬物動態学(やくぶつどうたいがく)
医薬品の作用を検証する学問分野
「薬物動態学」というと、とても難しい学問のように思えます。ですがその内容はいたって単純で、「飲んだ薬が体内でどのような動きをし、変化していくか」を検証していく学問です。薬の専門家である薬剤師にとって、この薬物動態学に基づいた薬の知識は、とても重要なものです。
一般に、薬はそれぞれの効能とともに、その「効き方」も異なります。使用してすぐに効果があらわれ、症状を改善する即効性のある薬もあれば、長い時間をかけてじっくりと効果をあらわす薬もあります。
こうした薬の特性は薬を設計する段階で薬物動態学に基づいた検討がなされ、その薬の用途や目的に沿うように作られていきます。頭痛薬のような鎮痛剤には即効性が求められますし、慢性病の薬であれば、有効成分が長時間、体内に留まっているようにするのがベターでしょう。
このような、「体内での薬の効き方、変化のしかた」を検討するのが薬物動態学です。
ポイントとなる4つのキーワード
薬物動態学では、ADME(アドメ)という言葉が重要なキーワードになります。これは吸収(Absorption)・分布(Distribution)・代謝(Metabolism)・排泄(Excretion)という、体内に入った薬がたどる4つの過程をあらわす英語の、頭文字を取ったものです。そしてこれら4つの過程を考えていくことが、薬物動態学の主軸になります。
まず「吸収」。どんなに有効な成分であっても、それが血液中に吸収されなければ、何の効果もあらわしません。ですから試験管内での試験結果がどんなに優秀でも、腸からの吸収性が悪ければ、充分な効果をあらわすことができないのです。また消化管内の内容物が多いか少ないか、つまり空腹時と食後とで、吸収性が大きく変わってきます。
次に「分布」。これは薬効成分が目的としている臓器に運ばれ、そこで活性化するすことを指します。心臓病の薬であれば心臓に、抗うつ薬であれば脳に運ばれ、そこで作用することにより効果があらわれるのですから、薬効を考えるときには重要な要素です。
薬に関わる者に共通する重要な知識
目的の場所に分布して作用した薬効成分は、やがて体内の酵素によって「代謝」され、その活性を失います。薬は体にとって異物ですので、こうした形で排除されるのは体が持っている自己防衛機能です。
こうして活性を失った薬は腎臓に運ばれ、尿に混合されて体外へと「排泄」されます。こうして、薬は人体内での仕事を終え、同時にその一生を終えることになります。
これら4つの段階にわたる薬の変化、人体の中で医薬品がどのように作用し、変化していくかを学ぶことは、薬学において大きな意味があります。薬を服用するタイミングや他の薬との併用の是非など、服薬指導において重要な知識となりますし、医薬品の開発という創薬の現場においても、なくてはならない概念となります。
医薬品に関係するすべての者にとって、「その薬が人体内でどのような変化をたどるのか」を知っておくことは、非常に重要な知識となるのです。
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