や行薬歴管理(やくれきかんり)
薬歴管理は薬剤師の基本業務
患者さんの薬歴管理は薬剤師の基本業務ですが、これは単なる処方履歴だけにとどまらず、より広い範囲の業務を含んでいます。いつ、どんな薬剤をどれくらい処方されたのか、それをどの程度の期間服用したのか。そして、もしも服薬によって何らかのアレルギーや副作用、相互作用が現れた場合には、管理記録簿にその旨を記録していきます。
さらにこうした「薬の効果」でだけではなく、患者さんからの要望や希望なども逐一記録していきます。これは「錠剤が大きくて飲みにくい」「粉薬ではなくカプセルにしてほしい」「服用後に眠くなることがある」等々の声を、情報として記録しておくものです。内容によっては担当医師に情報を伝えて、その後の薬剤処方の改善につなげていくという重要な役割を担っています。
そう捉えると、薬剤師が行う薬剤管理業務は、厚生労働省の推進する「チーム医療」「医薬分業」を象徴するものだといえるかもしれません。
薬歴を記録せずに放置していた事案
薬剤師にとっては基本かつ重要な業務である薬歴管理ですが、この業務を怠ったという事例が立て続けに2件も明らかになりました。いずれも2015年2月に発生した「調剤薬局チェーンで患者さんの薬歴が記録されておらず、未記入のまま放置されていた」という事案です。
調剤薬局は患者さんや保険機構に対して「薬剤服用管理指導料」を請求することができますが、これは適切な薬歴管理を記録に残すことが前提です。つまり薬歴を記録することをせずに料金だけを受け取っていたとすれば、「本来なら請求できないはずの費用を計上・請求し、それを受け取っていた」ということになります。
チェーン店の数十店でそれが行われていたということは、明らかに組織的な行為です。これは由々しき事態でしょう。
何のために薬歴管理が存在するのか
厚生労働省が推進する医薬分業の流れに沿い、医療行政はさまざまな変遷をたどっています。薬剤については院外処方を推進する方針がとられ、診療報酬の見直し等を経て、多くの医療機関が院外処方へとシフトしています。
そうした流れによって、調剤薬局に患者さんが流入し、多くの現場でスタッフが不足したり、業務が十分に行えなかったりといったことに対しての懸念もあります。
ですが薬歴記録は、患者さんの健康と安全に直接関わるものです。それを思えば、その患者さんがこれまでに服用してきたすべての薬剤と、それに関する情報をすべて閲覧できる仕組みがあれば万全なのですが、そこまでのシステムを構築・稼働させることは難しいでしょう。だからこそ、患者さんに直接薬剤を手渡す薬局でのコミュニケーションが重要で、その患者さんがどのような薬歴を持っているのか、他の医療機関からの重複投与や飲み残しはないのかなどの情報をしっかり記録し、参照することが求められます。
薬剤師にとって、薬歴管理は「業務の一端」です。しかし実際に薬を服用する患者さんにとっては、自分自身の安全を保証するものであり、ときには命を守るための記録にもなり得るものなのです。
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