や行薬価基準(やっかきじゅん)
薬価基準とは
日本では、一般的に使用されている医薬品のおよそ95%は、保険診療の対象になっているとされています。それら保険診療で用いられる医療用医薬品と、その価格を収載したものが厚生労働大臣の定める「薬価基準」であり、その数は15,000種ほど存在します。
そして保険診療の範囲内で薬剤を使用した場合には、薬剤費として薬価基準に記載されている価格が用いられることになります。逆に言うと、この薬価基準に収載されている医薬品でなければ、保険診療の範囲内で使用することはできません。それ以外の医薬品を医師の判断によって使用する場合には、自由診療の扱いになります。
薬価基準の原型は昭和初期にすでに作られていましたが、1950年に医薬品の標準購入価格を示すものとして作り替えられ、その後、毎年のように改正を重ねて、1957年に現在のような「医薬品品目表」と「基準価格表」というふたつの側面を持つ制度として更新されました。
薬価基準と医療行政
日本では憲法に基本的人権として謳われている「健康で文化的な生活を営む権利」を保障するものとして、国民皆保険制度が敷かれています。そして、一部を除くほぼすべての国民から健康保険料を徴収する代わりに、医療分野に対して行政が強力な制御を行っています。薬価基準もそうした行政のコントロールの一環と見ることができます。
本来、商品の価格は需要側と供給側とのバランスによって定まるものであり、行政がその価格を策定するというのは市場原理に反する行為で、商取引における健全な競争を妨げるといったデメリットがあります。その一方、基準価格を定めておくことで、全国どこででも同一の医療サービスを同一価格で受けることができるというメリットも生まれます。
これらのメリット・デメリットのうち、前者のデメリットを甘受しても後者のメリットを追求したのが、現在の制度であると見ることができます。
薬価基準の抜本的な見直しはあるのか
医療機関が患者さんに対して何らかの薬を出したとき、医療機関は患者さんに対して、その負担分に応じた額を請求し、残りは各支払機関に請求します。これら医療機関が請求する額の総額が、薬価基準に記載された金額です。たとえば薬価基準に「一錠100円」とされている薬であれば、たとえば患者さんには10円を請求し、支払い機関に90円を請求します。
ですが、これらは医療機関の「売値」であって、「仕入れ値」ではありません。そこには市場原理が働いており、薬価基準の価格よりも低い金額で、医療機関は薬剤を仕入れています。そこに薬剤による利益が発生しており、利益を追求しようとすれば「より差益の大きい薬剤を処方する」という傾向も起こりかねません。
こうした懸念から、厚生労働省では定期的に製薬メーカーに対して薬剤の販売価格を調査しています。そしてそれらの結果を薬価基準に反映させるようにしていますが、その活動にも限界があります。そのため薬価基準そのものを抜本的に見直し、「給付基準額制度」あるいは「参照価格制度」と呼ばれる制度の導入が検討されてきましたが、そこにも多くの問題があり、実現には至っていません。
薬価基準とその抜本的制度改革には、まだまだ多くの課題・問題が横たわっています。